ニュースの概要
ノルウェーのシェアモビリティ事業者Rydeが、これまで主力としてきた電動キックボードに加え、シェア型の電動自転車の提供を始めました。最初の対象はドイツのヴッパータールとリューベック、スウェーデンのヘルシンボリです。今後2〜3週間のうちに、スウェーデンのベクショーとマルメ、ノルウェーのアスケーとバールムにも広げる計画です。利用者は新しいアプリを入れる必要がなく、いつものRydeアプリの中で、キックボードか電動自転車かを選んで借りられます。単なる車種の追加にとどまらず、1つの事業者が複数の移動手段を束ねる運営への転換点として読み取れる動きです。
引用元: Ryde、ドイツ・スウェーデンでシェア型電動自転車を展開しマルチモーダル事業者へ(Micromobility.io)
分析・見解
キックボード専業のままでは季節の波に勝てない
シェア型キックボードの最大の弱点は、季節と天候に収益が左右される点です。北欧では冬の積雪や凍結で、キックボードの稼働は大きく落ち込みます。小径の車輪は雪や路面の段差に弱く、転倒のリスクも高まるためです。電動自転車は車輪が大きく、安定して走れます。冬場でも一定の需要を残しやすい乗り物です。
Rydeが北欧の都市に電動自転車を加えた背景には、この稼働率の谷を埋める狙いがあると考えられます。
既存アプリへの相乗りが生む低い導入コスト
今回の発表で最も重要なのは、新アプリを作らなかった点です。シェア事業では、利用者を1人集めるための広告費が重くのしかかります。すでにアプリを入れている人に新しい選択肢を見せるだけなら、その費用はほぼかかりません。決済、本人確認、利用規約の同意も、既存の仕組みをそのまま使えます。
加えて、回収や充電、故障対応を行う現場の運用班も、キックボードと共用できます。車両が増えても、拠点や人員の増え方は比例しません。ここに規模の経済が働きます。
欧州で進む運営許可の絞り込みと事業者の生き残り策
欧州では、キックボードの台数制限や、運営事業者を数社に絞る入札制が広がっています。パリは2023年の住民投票を受けて、シェア型キックボードを全面的に禁止しました。許可を得られるのは、事故率や駐車マナーなど、自治体が求める条件を満たした事業者だけです。
この流れでは、キックボード1種類だけの事業者は不利になります。自治体から見れば、複数の乗り物を1社にまとめて任せるほうが、窓口も契約も単純になるからです。Rydeの動きは、入札で選ばれる側に回るための布石とも読めます。
電動自転車は車両の寿命と盗難リスクが課題になる
ただし、電動自転車は良いことばかりではありません。車体が重く、1台あたりの購入費はキックボードより高くなります。電池の劣化や、ブレーキやチェーンの整備も欠かせません。盗難や破壊行為に遭った際の損失も大きくなります。
過去にはシェア自転車の大手が、車両の損耗と盗難で採算を崩した例が複数あります。Rydeが電動自転車の利用単価をどう設定し、整備の費用をどこまで抑えられるかが、今回の挑戦の成否を分けます。
ビジネスへの影響
自治体の担当者は複数車種を1社に任せる設計を検討する
シェアモビリティを導入する、あるいは更新する自治体にとって、今回の動きは設計の見直しを促します。キックボード、電動自転車、場合によっては原付まで、車種ごとに別の事業者と契約すると、管理の手間が増えます。1社が複数車種を出す形なら、駐車場所のルール、事故の報告、データの提出先を一本化できます。
入札の際は、台数の上限だけでなく、冬場の稼働を維持できる車種構成を評価の項目に加えるとよいでしょう。
不動産や観光の事業者は拠点づくりで先手を打てる
マンション、ホテル、商業施設を持つ事業者にとっては、シェア車両の置き場を敷地内に設けることが、新しい付加価値になります。電動自転車は、キックボードより長い距離を無理なく走れるため、最寄り駅から少し離れた物件の弱みを補えます。
国内でも、シェア型の電動自転車や電動キックボードは都市部で広がっています。所有する物件の周辺で、事業者と共同の拠点を作れるか、早めに確認しておく価値があります。
モビリティ事業者は車種追加の前に運用の型を固める
これから車種を増やす事業者は、車両を買う前に、回収、充電、整備の工程を共通化できるかを確かめる必要があります。電動自転車の整備に必要な技能と部品は、キックボードとは別物です。外部の整備業者との提携や、現場担当者の研修計画を先に用意しなければ、故障車が増えて稼働率が下がります。
小さな都市で試験導入し、故障率と盗難率を測ってから展開する、Rydeと同じ段階的な進め方が現実的です。