ニュースの概要
NABSAの2025年業界レポートから、北米のシェア型マイクロモビリティ市場が利用規模をさらに広げたことが分かりました。電動キックボードやシェア自転車などの年間利用回数は2億3700万回に達し、前年から5%増加。車両数も約35万台へ増えました。一方で、サービスを展開する都市は403都市と3%減り、車両1台当たりの利用回数は1日1.9回にとどまり、10%低下しています。市場全体の需要は伸びているものの、車両を増やせば同じ比率で利用が増える段階から、地域ごとの採算性や配置精度が問われる段階へ移ったといえます。
引用元: 北米のシェア型マイクロモビリティ、2025年利用回数が過去最高の2億3700万回に(NABSA)
分析・見解
今回の数字で重要なのは、利用回数の増加だけを見れば成長市場に見える一方、車両の増加率が需要の伸びを上回っている点です。利用回数は5%増えたのに対し、車両数も5%増え、さらに1台当たりの利用回数は10%下がりました。これは単純な需要不足というより、車両が利用の多い場所と時間帯に十分集中していない可能性を示します。市場全体が拡大していても、個々の車両の稼働効率は悪化し得るという、成熟期に近い市場特有の現象です。
稼働率の低下には複数の要因があります。第一に、事業者が新規地域の獲得や自治体との契約維持を優先し、需要予測が十分でない場所にも車両を配置した可能性があります。第二に、通勤、通学、観光、買い物といった利用目的が都市ごとに異なるため、平均値だけでは実態を捉えにくいことです。中心部の平日昼間は車両が不足する一方、住宅地や観光地では夕方以降に余る、といった偏りが起きれば、総台数が増えても利用効率は下がります。
都市数が減少したことも、必ずしも市場縮小を意味しません。採算の合わない都市から撤退し、人口密度や交通結節点の条件が良い都市へ経営資源を集める動きなら、むしろ事業の健全化と読めます。シェア型サービスは、アプリを配信すれば全国展開できる事業ではありません。車両の回収、充電、修理、再配置、自治体との調整が必要で、利用密度が低い地域ほど一回の乗車に対する運営費が重くなるからです。403都市という数字の背後で、事業者が拠点の選別を進めていると考えるべきでしょう。
技術面では、車両そのものの高性能化より、配置と運用を細かく制御する仕組みの価値が高まります。曜日、天候、学校や競技場の催事、公共交通機関の遅延、駐車可能区域などを組み合わせ、数時間先の需要を予測できれば、同じ台数でも利用回数を引き上げられます。車両の位置情報だけでなく、電池残量、故障履歴、走行距離まで統合すれば、充電のための回収と修理回収を一度に済ませる運用も可能になります。今後は、利用者向けアプリの機能競争より、裏側の配車計画と保守効率が利益を左右するでしょう。
独自の視点を挙げるなら、1台1日1.9回という数字は、利用者の関心が失われたというより、シェア車両が公共交通の代替ではなく、接続手段として定着した結果とも考えられます。鉄道駅から職場までの最後の数キロ、駐車場から商業施設までの移動など、短距離の補完利用が中心なら、利用回数は一定の上限に近づきます。この場合、台数を増やすだけでは成長せず、鉄道やバスの時刻、駅周辺の駐車区画、定期券との連携が新たな成長条件になります。
今後の市場では、総利用回数よりも、地域別の稼働率、再配置費用を含む一回当たり利益、継続利用者の割合、公共交通からの乗り換え効果が重視されます。自治体も車両台数の多さを成果とせず、交通空白の解消や自動車移動の削減にどれだけ寄与したかを評価する必要があります。成長の次の段階は、車両を増やす競争ではなく、必要な場所に必要な時間だけ置く精度の競争です。
ビジネスへの影響
事業者が最初に見直すべきは、都市単位の売上ではなく、地区と時間帯ごとの採算です。駅周辺、大学、住宅地、観光地を分け、利用回数だけでなく、再配置にかかった人件費、充電費、駐車違反対応費、故障修理費まで乗車単位で計算する必要があります。稼働率が低い地域では、車両を一律に削減するのではなく、朝夕だけ台数を増やす時間帯運用や、催事日に限定した臨時配置が有効です。
自治体との契約でも、保有台数や展開区域を固定する方式から、需要と成果に連動する方式へ移行する余地があります。例えば、駅から公共施設への接続回数、低所得地域の利用機会、公共交通が少ない時間帯の移動支援などを評価項目にすれば、単なる台数競争を避けられます。事業者は、自治体に利用実績を提示するだけでなく、交通政策上の効果を測定して契約更新の材料にすべきです。
車両調達では、安価な大量導入より、電池交換のしやすさ、部品の共通化、盗難対策、修理時間の短さを重視した方が長期的な利益につながります。需要が読みにくい都市では、購入一辺倒ではなく、季節契約や機動的な車両移管を組み合わせる方法も考えられます。鉄道会社、大学、商業施設、ホテルとの連携では、乗車券や会員制度を統合し、単発利用を継続利用へ変える設計が重要です。
投資判断を行う企業は、利用回数の伸び率だけで市場を評価してはいけません。地域別稼働率が改善しているか、撤退都市の損失を成長都市の利益で吸収できているか、規制変更や事故対応の費用を織り込んでいるかを確認する必要があります。市場が拡大する局面ほど、台数を増やす企業より、運用データを使って無駄な車両と作業を減らせる企業の方が、安定した利益を確保しやすくなります。