ニュースの概要
マレーシア運輸省は国会での答弁で、電動キックボードなどの小型移動手段について、全国の公道での利用禁止を当面続けると明らかにした。一方で、現在進めている「サンドボックス」(=規制を一部ゆるめた安全な試験環境)での実証は止めず、その結果を将来の包括的な規制づくりに生かすと説明している。実証の場は、クアラルンプール、シャーアラム、スバンジャヤ、ペナンなどの自治体区域と複数の大学キャンパスを合わせた7地域である。道路の整備状況なども検証の対象になる。全面解禁でも禁止の固定でもなく、データを集めてから法律を作る順番を選んだ形だ。
引用元: マレーシア、電動キックボードの公道禁止を維持しつつ実証結果を新制度に反映へ(Malay Mail)
分析・見解
禁止を保ったまま試す、順番を逆にした制度づくり
この発表の肝は、禁止を解くかどうかではなく、順番にある。先にルールを作って解禁し、事故が出てから直す国が多かった。マレーシアは逆で、禁止を保ったまま限られた場所で試し、結果を見てから法律を作ると言っている。
解禁後に規制を足す方式は、広がった事業者や利用者の既得権が生まれ、後から締めにくい。パリは2023年の住民投票で貸出式キックボードの廃止を決めたが、事業者が定着したあとの撤退は大きな混乱を伴った。先に試す方式は、こうした後戻りの費用を避けられる。
実証地が大学と都市部に分かれている意味
7地域に自治体区域と大学キャンパスが混在する点は、設計として理にかなっている。大学は敷地が閉じていて、利用者の年齢層が近く、速度や走行ルートも管理しやすい。つまり、事故の原因を切り分けやすい。
一方、クアラルンプールやペナンの市街地では、歩行者、バイク、バスが入り乱れる。同じ車両でも、閉じた環境と開いた道路では危険の質が違う。両方のデータを並べれば、どこなら安全かを場所ごとに線引きできる。全国一律の許可か禁止かという粗い二択より、地区ごとの許可に落ち着く可能性が高い。
日本の2023年改正と比べて見える慎重さ
日本は2023年7月に法を改め、最高時速20キロ以下などの条件を満たす電動キックボードを「特定小型原動機付自転車」とした。16歳以上なら免許なしで乗れる区分である。制度は速く整ったが、歩道走行や信号無視、飲酒運転の報道が続き、取り締まりが後追いになった面がある。
マレーシアが実証に時間をかけるのは、この制度が先で運用が後という副作用を見ているからだろう。ただし慎重さには代償もある。禁止中も私有地や非公式の利用は残り、統計に出ない事故が見えなくなる恐れがある。
最大の論点は、道路の作り直しを誰が負担するか
検証対象に道路インフラが含まれるのは重要だ。キックボードは小さな車輪で段差に弱く、舗装の傷みや排水溝のふたが転倒の引き金になる。車道の端に走行帯を設けるのか、歩道を広げるのかで、必要な予算は桁が変わる。車両の基準だけでなく、道路側の投資計画が制度に付いてくるか。ここが実効性を左右する。
ビジネスへの影響
今は参入より、実証への関与で足場を作る時期
マレーシアで貸出事業や車両販売を考える企業は、公道が解禁されるまで売上を見込めない。ただし、規制の中身は実証の結果で決まるため、いま動ける余地は大きい。実証に参加する自治体や大学と協力し、走行データや事故の記録を提供できれば、基準づくりの議論に名前が残る。後から決まったルールに合わせるより、決める側に近い位置を取るほうが有利である。
数字で判断するために追う三つの確認点
意思決定者は、公式発表を待つだけでなく、次の三点を自社で追うとよい。一つ目は、速度の上限と走行できる場所の線引き。二つ目は、保険と事故時の責任の所在。三つ目は、バッテリーの安全を含む車両の認証基準である。これらは事業の採算に直結する。たとえば保険料が高く設定されれば、一回あたりの利用料に上乗せされ、需要が下がる。
日本企業の強みと、持ち込む際の注意点
日本の2023年以降の運用経験は、現場の課題を知る材料になる。ヘルメットや走行ルールの啓発、返却場所の管理は、日本の事業者が磨いてきた部分だ。ただし、日本の制度をそのまま輸出できるわけではない。気候、道路の状態、二輪車の多い交通事情が違うため、現地のデータで作り直す前提で計画したい。禁止が続く間は、大学や工業団地など私有地での小さな運用を試し、実績を積むのが現実的である。